2016年04月14日

卒業論文「ヴィトゲンシュタインにおける幸福」(指導教員/故・永井成男先生)(7)

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第三節 倫理的態度 つづき

ヴィトゲンシュタインと禅については、これくらいにして、次に、ヴィトゲンシュタインが講演した「倫理学講話」をとり上げる。これは、「論考」に述べられている倫理観と極めて似た考えが見られる。そして、倫理学に対するヴィトゲンシュタインのまとまった論文としては、現在刊行されている限りでの唯一のものと考えられている。このように、ヴィトゲンシュタイン自身が、倫理について語ったものであるから、彼の倫理的態度を考察する上で絶好の資料と言うべきである。この論文の大半は、相対的価値と絶対的価値に関して、具体的な事例を枚挙しながら論じているわけだが、結論として彼が言いたいことは、絶対的価値は記述不可能であり、もし倫理的宗教的なことがらが表現されたとしても、それは、われわれの言語についてのある種の誤用であり、その誤用とは、その表現が何らかの類比であることによるものである、ということである。例えば、われわれが神について語り、またわれわれが、神に跪き祈るとき、われわれの言動はすべて、偉大な力を備えた"人間"として神を描き出す。それは諷喩として描かれているのである。したがって、これらは実は、記述できる事実を前提としておらず、いわば無意味な表現であって、そのような無意味な表現は、その人が未だ、正しい表現を発見していないから無意味なのではなく、それらの無意味さこそが、ほかならぬそれらの本質である、ということになる。そして彼は「倫理学講話」の最後で、次のように結んでいる。

それらの表現(無意味な表現)を使って私がしたいことはただ、世界を越えていくこと、そしてとりもなおさず有意義な言語を越えていくことにほからならないのであります。私の全傾向、そして私の信ずるところでは、およそ倫理とか宗教について書きあるいは語ろうとしたすべての人の傾向は、言語の限界にさからって進むということでありました。このようにわれわれの獄舎の壁にさからって走るということは、全く、そして絶対に望みのないことであります。倫理学が人生の究極の意味、絶対的善、絶対的に価値あるものについて何かを語ろうとする欲求から生ずるものである限り、それは科学ではあり得ません。それが語ることは、いかなる意味においても、われわれの知識を増やすものではありません。しかし、それは人間の精神に潜む傾向をしるした文書であり、私は個人的にはこの傾向に深く敬意を払わざるを得ません。また生涯にわたって、私はそれをあざけるようなことはしないでしょう。

この最後に述べられた彼の態度は、非常に根本的な人生態度と言わなければなるまい。すなわち言語の限界というものがあり、記述不可能な領域が存在するという認識、そしてその領域が非常に重要なものであるという彼の主張がうかがわれる。

このことを「論考」との関連において見ていくことにする。「論考」という書物は、S・トールミン、A・ジャニック共著の「ヴィトゲンシュタインのウィーン」では、論理的であると同時に、倫理的な書物であると見なされている。ヴィトゲンシュタインが、「論考」で何を成し遂げたと考えていたかを示すものとして、次のような彼の手紙を引用している。

この本の要点は、倫理的なものです。私はかって今の序文に、実際には入れなかった一文を入れようかと思ったことがありますが、それをここであなたのために書き出してみます。というのも、それは恐らくあなたにとって、本書を理解するための鍵となるでしょうから。そのとき私が書くつもりでいたことは、これです。私の仕事は、二つの部分、すなわちここで述べていることプラス書いてないこと、から成る。そして重要なことは、この二番目の部分です。私の本は、倫理的なものの領域に対する限界線を、いわば内側から引いています。そしてこれが、限界線を引く唯一の厳密な方法であると確信しています。要するに、他の多くの人々が単にむだ話をしている場所では、わたくしの本は、それについては沈黙し、あらゆるものを何とかしっかりと本文の中に入れることができたのです。

同様のことをパウル・エンゲルマンが、ヴィトゲンシュタインについて述べている。

われわれの語ることができることが人生において問題となることのすべてである、と考えるのが実証主義であり、そしてこれが実証主義の本質である。これに対し、ヴィトゲンシュタインの熱烈な信念によれば、人間生活において本当に大事なものは、彼の見解ではまさしく、それについてはわれわれが沈黙しなければならないものである。・・・

すなわち、ヴィトゲンシュタインは、倫理的なものを理性的な議論の領域から区切ろうとしているのである。ヴィトゲンシュタインは、「論考」において、「倫理の命題は、存在しえない。命題は、より高貴なものを一つとして表現することができない。」(6・42)「倫理を言葉になし得ぬことは明らかである。倫理は先験的だ。」(6・421)と言っている。そしてこの「示す」ことはできるが「語る」ことはできないという点において、倫理は論理と同様、事実に依存していない。ヴィトゲンシュタインは、「論理的命題は、世界の足場を提示する。それは、いかなるものも扱わない。」と言う。それの意味するところは、論理的命題は、世界の外郭の形式を記述し、現実の世界は、この論理的な外郭の内部で成立するから、論理的命題は何ら特定の事象ではないということである。それは、経験的なもの、事実的なものを越えており、それは倫理についても同様なのである。したがって、この二つが、ヴィトゲンシュタインの言う神秘的なものになる。これはどちらも、命題が有意味ではあり得ない領域である。

倫理学に「知的な基礎」を与えようとする試みは、すべて廃棄しなければならないというヴィトゲンシュタインのこの確信は、前期、後期を通じて変わらなかった。1930年12月、シュリックの説を批判して、ワイスマンに次のように語ったということである。

シュリックは、神学的な倫理学には善の本質について解釈が二つあるという。表面的な解釈によれば、善がよいものであるのは、神がそれを欲するからである。より深い解釈によれば、神が善を欲するのは、それがよいものであるからであるという。私の考えでは、最初の解釈のほうがより深い解釈である。つまり、神が命じ給うものがよいものである。というのは、この解釈は"なぜ"それが善であるかという、何らかの種類の説明を求めようとする道筋をふさいでしまうからである。これに対し、二番目の解釈は皮相で合理主義的な解釈である。それは善きものについて、さらにそれ以上の何らかの基礎づけを与えることができるかのように考えているのである。

その少し後で、彼はショーペンハウエルの言葉を引用している。「道徳を説くことは難しく、それに知的な正当性を与えることは不可能である。」

以上、ヴィトゲンシュタインの倫理というものに対する考え方を様々な角度から見てきたわけだが、この考え方に関連して、芸術に対する彼の考え方について少し触れたい。ヴィトゲンシュタインによると、倫理と美的感覚とは一体であり(6・421)芸術だけが人生の意味を表現できる、ということである。そして、芸術家だけが人生において最も重要なものを教えることができる、と考える。「草稿」で次のように述べている。「芸術的な驚きは、世界が存在することである。存在するものが存在することである。」と。

これで、ヴィトゲンシュタインの倫理的態度を終わり、同時に第二章を終わるが、ここに挙げた様々な逸話や彼の考え方は、彼における幸福というものと密接につながっているであろう。彼における幸福というものが、どのようなものであるかは、以上述べてきた彼の人生態度から大よそ理解されようが、次章において明確にまとめてみたい。

次回の予告

第三章 ヴィトゲンシュタインにおける幸福

お楽しみに!

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    2015年03月29日 アクサレディスで笠りつ子が優勝
    2015年05月19日 ほけんの窓口レディスでイ・ボミ優勝
    2015年05月31日 リゾートトラストレディスは、テレサルーの優勝、今期2勝目
    2015年06月21日 ニチレイレディスで申ジエが大会2連覇、今期ツアー2勝目
    2015年09月06日 ゴルフ5レディスは、イ・ボミが2週連続優勝で今期4勝目
    2015年11月15日 伊藤園レディスでイ・ボミ今期6勝目、史上初の2億円越えで賞金女王を決める 
    2015年11月29日 申ジエ、今期最終戦のリコーカップで6打差ぶっちぎりの優勝
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    2010年01月12日 大西順子トリオ・ライブ
    2010年03月22日 矢野沙織 in 月見の里学遊館
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    2014年06月15日 堤智恵子ライブ @Swing (新栄)
    2014年06月22日 太田AHAHA雅文ライブ @くすりやさん in 名古屋市中川区
    2014年06月26日 アリス=紗良・オット、フランチェスコ・トリスターノ @コロネット(シビックセンター)
    2014年09月07日 ジャズ講座「ベーシスト稲葉国光が見た日本のトップジャズメンたち」 @リブラ
    2014年09月13日 菅沼直&今岡友美 セプテンバージャズナイト @シビックセンター交流広場
    2015年01月18日 佐藤允彦ジャズ講座・60年代のジャズを語る、弾く 〜ジャズがマグマだった時代〜
    2015年02月14日 松本茜、浜崎航、Valentine Jazz Live vol.6 @リブラ
    2015年02月28日 Hyclad Concert (リブラ/岡崎市図書館交流プラザ)
    2015年07月04日 リブラ七夕ジャズライブ 森谷ワカ(p,v) レコードコンサートとミニライブ
    2015年09月04日 セプテンバージャズナイト 菅沼直カルテット&今岡友美 @シビックセンター
    2015年09月14日 エマニュエル・パユ フルート公開レッスン @シビックセンター
    2015年12月24日 矢野沙織 Bubble Bubble Bebop Live Tour 2015 Second Round@スターアイズ
    2015年12月27日 山中千尋トリオ バースデイライブ2015 冬 @スターアイズ
    2015年12月31日 纐纈歩美 @スターアイズ
    2016年01月17日 「ジャズを語る」【第1回:雑食音楽=ジャズ】講師/佐藤允彦(ジャズピアニスト)
    2016年02月20日 片倉真由子、浜崎航、Valentine Jazz Live vol.7 @リブラ
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