このライブ・チャージをご負担いただいているおかげで私たち演奏者は楽器のメンテナンスをしたりCDを聴いたり、さらには一日二食ないし三食(一食の場合もある?)の食事にありつくことができ、どうにか暮らしを立てていくことができる。今回は私たちの生命線「ライブ・チャージ」について考えてみたい。
このくだりは、かつてラスベガス旅行をしていた頃「貧者のラスベガス」を標榜していた当方frugal gambler好みの内容です(ちなみに、「辺境のラスベガス」「非日常の中の日常性」なども標榜していた)。贅沢は決して楽しくありません。どうにかやっていければそれで十分楽しいのです。むしろそのほうが楽しい場合だってあるでしょう。
このことは、当方が以前書いた記事「吉岡直樹スペシャルユニット in 吉良(インテルサット)」の中の次の文章に符合(シンクロ)します。
ピアノの森永理美さんが1st アルバムを出したばかりの割には、お客さん7人程度と何とも悲しい状況にも関わらず、変わることなく演奏してくれた3人には拍手を送りたいと存じます。まあ、ジャズ・プレーヤーは、そんなことはよくあることでしょうし、インテルサットさんは、幡豆郡吉良町という田舎町のいわば場末のジャズクラブですから、仕方ない面もありましょう。音楽をやっていられるだけでミュージシャン冥利に尽きるでしょうし、そう思えなければ、音楽の道は志せないでしょう。ある意味、幸せな方たちだと思います。
ちなみに、ファースト・リーダー・アルバムを出した森永理美ちゃんや纐纈歩美ちゃんは、自己のリーダーアルバムのメンバーとの演奏と同時に、吉岡直樹クインテットでも演奏を続けており、また、その他のいろいろな演奏者ともジョイントして、謙虚な姿勢ながらも活動領域を広げています。翻って、矢野沙織ちゃんにしても、今はピンク・ボンゴに入隊しています。もちろん、3年越しの希望が叶って入隊したわけで、活動に窮してピンク・ボンゴに入ったわけではないにしても、一時の勢いが減速していることも確かでしょう。そのあたりは、いつも当方が指摘していることであり、ジャズ・ミュージシャンたるもの了解済みのことでありましょう。
当方記事「纐纈歩美 in 豊橋(シャギー)」より一部引用します。
まあ、基本的にジャズはマイナー音楽なので、勢いのあるうちにアルバムを出せるだけ出しておくに越したことはありません。運良く余程のビッグネームにでもならない限りは、いずれライブハウスのどさ回りが待っています。そこでいかに上手く立ち回り息の長い演奏家になるかもジャズを選んだ者の宿命であります。とは言え、纐纈っちゃんは今、若くて伸び盛りなわけですから、とりあえず今できることを精一杯やるのがよろしかろうと存じます。
また、当方記事「矢野沙織@スターアイズ 3月21日」より一部引用します。
飲み物を注文しながら、麻生祐美似の可愛くて気立てのいい店員さんに「4月の予定表を見たんだけど、矢野沙織さんは来ないみたいだね」と話していると、店内で淡々と仕事をしていたマスターが、「しばらく来ないよ。事務所を変わって方針が変わったみたい」とのことでした。
さて、店内に置いてあった色々なチラシや「ジャズ批評」を読んだりしているうちに、開演の時間が来ました。
今回は、女性の付き人さんが一緒に来ていました。今まで、そういうことはなかったので、なんだか完全護衛されているといった雰囲気でした。
新しい事務所は、たぶんここでしょう。
http://www.mondoranamusic.com/artist.html
しかし、今まで毎月のように来ていたスターアイズに来ないという方針とは、一体どんな方針の一環なのでしょう。もっと大きな箱でやらせようということでしょうか。いやいや、ジャズというマイナーなジャンルにおいて、大箱で人を集めるというのは難しいので、ライブハウスの「どさ回り」は必須ではないかと思うのですが。今後の動向に注目したいと思います。
やや余談になりますが、自己のファースト・リーダー・アルバムを出した森永理美ちゃんや纐纈歩美ちゃんは、吉岡直樹クインテットの中にあっても、とても収まりがよいです。そのあたりの「でしゃばらない控えめな演奏」について指摘した当方の記事「岡崎ジャズストリート2010、2日目」の一部を引用します。
加藤大智君のアルトと纐纈っちゃんのアルトは随分色も音色も違います。加藤大智君のアルトは、つや消しな色で年季が入っている感じ、音もつや消し風の音。一方、纐纈っちゃんのアルトは、金色のピカピカ、音も硬質な感じ。世の中の他のアルト・ブロウワーの音色はまた少しずつ違うので、素人である当方の今後の研究課題。管楽器の重複を嫌う当方ですが、2人のアンサンブルは、ハモっていてなかなか良かったと思いました。2人でフルートの演奏もありました。纐纈っちゃんもフルートを吹くとは驚き。だだ、フルートのアンサンブルは、ちょっとしょぼい感じがしました。フルートは、曲にもよりますが、当方、あまり好きな楽器というわけでもないので、そのせいかもしれません。2人ともリーダーではないのでバイプレーヤーに徹していて控えめで感じがよろしい。
中略
森永理美さんも最近売り出し中のピアニストのようですが、ローランドの電子キーボードのせいもあるかと思いますが、かなり控えめに演奏されていたような。お寺の仏壇を背にした狭いスペースの演奏ですから、あんまり気張らないほうがよろしかろう。出で立ちは、白のふんわりしたお洋服に黒のスパッツ。金ピカのイヤリング。髪は少し染めておられました。リーダーでもないので、地味な服装で控えめに演奏されていました。この人も、今後ちょっと注目しておきたいと思います。
中略
おとなしめのグループでしたが、みんな控えめで感じの良い人々の集まりといった風情、それによって、全体として、まとまりのある演奏でした。選曲も、当方好みの曲が多くて、心地よく聴くことができました。くどいようですが、吉岡君の作ったパンフレットは、「ごあいさつ」「メンバー紹介」「曲目解説」など丁寧に作られており、非常に好感度が高いです。
さらに余談になるかもしれませんが、ピンクボンゴに入隊した矢野沙織ちゃんの行く末(今後の展開)や如何に。また、高校卒業後、バークレイあたりに行くかもしれない寺久保エレナちゃんの動向や如何に。同じく高校を卒業する中島あきはちゃんはどうする。あきはちゃんの相方の今年高校三年生になる中道みさきちゃんのドラムにも注目しなきゃ。堤智恵子さんのライブも近くに来たら聴きに行きたいところです。
さてと、吉岡直樹君の「ライブ・チャージ考」に戻って、話を進めたいと思います。また少し勝手に引用させてもらいましょう。
ニューヨークには一度だけ旅行したことがあるが、チャージの事情はどうであったか。ビル・エヴァンスのオリジナルに「ノー・カヴァー、ノー・ミニマム」というブルースナンバーがあるが、これが手がかりになる(いくら聴いても手がかりにならないが)。
カヴァーとはカヴァーチャージの略で、実質的には日本の「ライブ・チャージ」と「テーブルチャージ」を合わせたものに相当するだろうか。ちなみにお店によってはMusic Chargeといっているようだからニュアンスは少し違うかもしれないが。
調べてみると、本来カヴァー・チャージとは一般のレストランにおいて、テーブル・カバーに対する対価をいう。だから、テーブルカバーをかけないバー(いわゆるカウンター席)には当然かからなかったらしい。僕が訪ねた範囲では、バーの席はテーブル席より「カヴァー」が若干安めに設定されたように記憶しているが、その名残かもしれない。
次に「ミニマム」であるが、これはたいへんアメリカらしい合理的な制度である。試しにバードランドのサイトを開いてみるとThere is a $10 food/drink minimum per person.と書いてある。かみくだいて言えば「一人当たり最低10ドル以上飲食をしてください」という意味。もしビール1杯だけというような場合、当然それだけでは10ドルに届かないのでミニマムの10ドル支払うことになる。お店によってはこのように金額で指定している場合のほか、2ドリンクミニマムのようにドリンクの数で指定している場合もあったように思う。
当方もたまたま、ひょんなことから一昨年ニューヨークに旅行しました。
当方の別ブログ「パープルタウン(NY旅行記)」もご覧ください。
なるほど、カヴァー・チャージというのは、テーブル・カバーに対する対価だったんですね。当方、バードランドで、ヒース・ブラザーズ(Heath Brothers)を聴いたのですが、ジミー・ヒースさんが何やら英語で「バードランドに来るといつも白いテーブル・カバーが印象的だ」みたいなことを言っていました。安いチャージのカウンター席も確かにありましたが、せっかくなので、テーブル席(1人だったので一番端の狭いテーブル)に座りました。たしかカヴァー・チャージが$30で、おっしゃるとおりミニマムが$10だったと思います。たしかビールを2回注文して、食事は食べずに節約しました。でも、勢い余ってお土産グッズをいっぱい買い込んでしまったので結構かかってしまいましたが・・・(^^;)。下記参照↓
5/15 Heath Brothers
追記(2011/03/08)/今週来たバードランドからのメールによると、今週の催し物のチャージは下記のとおりです。なのでもしかしたら2年前のヒース・ブラザーズのときも、当方が座った席のカヴァーチャージは$40だったかもしれません。まあ、今更どうでもいいことではありますが。
This Week @ Birdland: Cedar Walton Quartet
with: Vincent Herring (sax) David Williams (bass) Willie Jones III (drums)
Tuesday, March 8th through Saturday, March 12th
Tickets: $40, center seating; $30, side seating
(+$10 food/drink minimum per person)
チャージが先払いか後払いかという点については、バードランドは全て後払いだったかと。イリディウムやスモークも後払い。ヴィレッジ・バンガードはとりあえず先払い。ジャズ・アット・リンカーンセンターはThe Allen Roomというコンサート会場でしたので当然先払いでした。
ところで、話は変わりますが、インテルサットのマスターの吉岡直樹君に対する評価は非常に高いです。当方も「御意」と申し上げたいです。インテルサットマスターの言を引用します。
吉岡はベーシストとしてだけでなくアレンジジャーとしてもプロデューサーとしても実力を発揮、きわめてシンプルに曲それぞれの持ち味を強調し、それでもってバランスのとれた実に気持ちよい音を作っています。毎回、新メンバーでのユニットもジャズそのものをいろんな角度で常に挑戦している姿勢がとても愉しみです。
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